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モーター定格出力とは(3)

モーター

 モーターの冷却と定格出力の関係 

前回のコラムでは、モーターの発熱が性能や寿命に与える影響と、動作パターンに応じた定格出力の変化を解説しました。最終回となる今回は、モーター冷却の仕組みとその役割、さらに定格出力への影響について解説します。

 

1.モーター冷却の仕組み

冷却の基本的な考え方を、スイカを冷やす場面で例えてみましょう。

涼しい部屋に置く、水桶に浸ける、流水にさらす——日常生活ではさまざまな冷却手段があります。部屋に置くより水桶に浸けた場合の方が早く冷える理由は、水の熱伝導率が空気より高いためです。流水にさらすとさらに冷えるのは、冷たい水が常に供給されるからです。また、冷やすスイカの大きさも冷却に影響します。大きなスイカほど冷えるのに時間がかかります。これは熱容量(比熱×質量)が大きいため、温度が下がりにくいからです。熱容量が大きなものは、性質上温度が上がりにくいとも言えます。

スイカ-1

この考えをモーターに置き換えてみましょう。モーターは損失によって自身が発熱し、この熱を効率的に排出する仕組みがなければ温度が上昇し続けます。熱の移動と温度上昇の関係をイメージしやすいよう、穴の開いたコップに液体が流れ込むモデルを活用して説明します。

 流れ込む液体 :モーターの発熱量

 コップの底面積:モーターの熱容量

 液面の高さ  :モーターの温度

 コップの上面 :モーターの温度限界

 流出穴の大きさ:モーターの冷却性能

蛇口

冷却性能が低い場合(穴が小さい場合)は液面の上昇が速く、すなわち温度の上昇が速いです。一方、冷却性能が高い場合(穴が大きい場合)は温度の上昇が遅くなります。

また、コップの底面積が大きければ、水の出入りの量が同じでも液面の高さの変化、つまり温度変化が小さくなります。さらに、コップの上面から液体があふれる状態は、モーターがオーバーヒートしたことを意味します。

この原理は、スイカを冷やす場合の仕組みと同様です。

 

2.モーター冷却の役割

モーター内部の部品(例:コイル、ベアリング、樹脂材料など)には耐熱温度の限界があります。この限界を超えると部品の寿命が縮むほか、最悪の場合、故障や発火などの重大な事故を招くリスクが発生することは前回説明しました。そのため、モーターを適正な温度で管理・運用することが不可欠になります。冷却はモーターの効率的かつ安全な運転を支える重要な要素であり、システム設計段階でも綿密な検討が求められます。

以下に、モーターで一般的に採用される冷却方式とその特徴を紹介します。用途や設計要件に応じて最適な方式を選択する必要があります。

 

モーターの一般的な冷却方式とその特徴

(1) 自然空冷方式

  モーターの表面や放熱板を使用して、自然放熱する最もシンプルな冷却方式です。

(2)強制空冷方式

  ファンを活用し熱を外部へ逃がす方式です。

(3) 水冷方式

冷却水を循環させて熱を除去する方式で、連続的に高出力が求められる環境で採用されます。

(4) 油冷方式

モーター内部に冷却油を使用し、モーター内部から外部への熱の移動をより促進します。水冷方式よりも更に高出力で過酷な環境で利用されます。

 

3.定格出力に与える影響

強力な冷却システムを導入すれば、効率的な熱の排出によってモーターの温度上昇を抑えることが可能となりモーターの定格出力や動作時間を向上させることができます。ただしその一方で、冷却方式の選択によっては水や油の管理が必要となるため、冷却システムのコストやメンテナンスの負担が増えることも考慮が必要となります。

当社のToyota Super Drive ACモーターでは、その高効率と低損失の特徴を活かし、シンプルかつメンテナンスが容易な自然空冷方式を提案しています。自然空冷方式の場合、走行風を直接モーターにあてる、他の発熱部品と適切な距離を確保するなど、モーターの搭載レイアウトが重要になりますが、効率的にモーターを冷却できれば、実使用上のモーター定格出力を向上できるだけでなく、モーターの安全性と信頼性向上が期待できます。

 

以上、全3回にわたり、モーターの定格出力にかかわる事象を解説してまいりました。これらの内容が、モーターの運用に関する理解を深める一助となれば幸いです。これからも、CNコンポーネントの開発・販売を通じてお客様のソリューションをサポートし、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。