Column

走行用電動モーターに求められる高効率とは

モータ

電動車両の心臓部ともいえる「走行用モーター」は、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する重要な役割を果たします。走行用モーターの効率は、車両全体のエネルギー効率に最も強い影響を与える要素の一つと言えます。

特に走行用モーターには、定点でのピーク効率よりもむしろ多様な運転シーンに対応しながら、高いエネルギー効率を実現することが求められます。これを実現する鍵となるのが「広い動作範囲で効率を確保する技術」です。今回のコラムでは、この視点を中心に解説します。

 

1.「広い動作範囲」とは何か?

まずモーターにおける「動作範囲」とは、特定のモーターが出力できる回転速度やトルク(駆動力)の範囲を指します(図1青線枠内)



                               図1 モーター回転速度・トルク特性とモーター動作範囲

車両の走行シーンは停止状態からの発進、巡航に向けた加速、高速域での巡航、停止時の減速(回生)など多岐にわたり、走行モーターにはそれぞれ以下のような特性が求められます:

 ①発進時・登坂時(低速・高トルク):
  0速から低速域で加速するに十分な高いトルク
 ②加速時(中速・中トルク):
  中速域からスムーズに高速域へ移行できる出力
 ③巡航時(高速・低トルク):
  高速、低トルク域で高い効率を維持
 ④減速時(全域):
  減速力に応じてモーター動作範囲全域で回生動作

 下図はこれらの運転状況がモーター動作範囲内のどの部分を使用しているかを緑の線で示しています。この図から走行モーターがとても「広い動作範囲」で使用されることがわかると思います。 

図2各運転状況で主に使用する動作範囲                   図2 各運転状況で主に使用する動作範囲

これらの運転状況すべてで、モーターが高効率を維持することが車両の省エネルギー性能や航続距離、さらには環境性能に直接寄与します。ただし、モーターの効率は、回転速度や負荷条件で大きく変化するため、広範囲の動作条件下で効率を維持するには高度な技術が求められます。

 

2.広い動作範囲で効率を確保するための主な技術

広い動作範囲での効率向上を実現するための技術として、モーターの電磁気設計から、材料選定、制御技術に至るまで幅広い技術があります。

 1)電磁気設計の最適化

通常、モーターの効率は動作点(回転数・トルク値)に大きく依存するため、効率のピークとなる範囲を広げたり、高効率ポイントを主要動作点に最適化する設計が必要になります。例えば、誘導モーターであればスロット形状や巻き線の最適化、永久磁石モーターであれば磁石特性に適した最適形状設計などがあげられます。

2)モーター材料技術

効率向上には、高性能な材料の使用が不可欠です。たとえば、鉄心材(電磁鋼板)にはグレードがあり、高効率を実現するためにはより高いグレードの鋼板を選択します。また、永久磁石モーターでは、フェライト磁石や高性能なネオジム磁石(Nd-Fe-B)を採用することで、励磁電流が不要となるため励磁損失を抑えることが可能になります。

3)インバーター制御の高度化

モーターの電力供給を最適化するインバーター制御は、モーターの効率向上に直結します。モーターを低回転から高回転まで効率的に制御できるベクトル制御に加え、誘導モーターであればモーターの抵抗やインダクタンスといった個々のパラメータにあわせた制御最適化や、永久磁石モーターであれば高回転域で弱め界磁制御といった技術を適用することで、モーターの動作点に応じた高効率な運転を実現します。

 

3.モーター効率マップ

それでは広い範囲で高効率を実現するモーターと、そうではないモーターを見分ける方法はあるのでしょうか。一般的にモーターの定格出力は熱定格で書かれることが多く、それは定点での出力を指すため、残念ながら定格出力から走行モーターの効率の良しあしを見分けることはできません。

そこで活用するのがモーター効率マップです。モーター効率マップはモーター動作範囲内で、どれだけ高い効率を実現できるかを表したマップで、車両走行用モーターを採用する際には必須の情報と言えます。

図3モータ効率マップ

           図3 モーター効率マップ(イメージ) 

図3は赤色の濃い部分がより高効率であることを示しています。設計する車両の車速と重量、タイヤ径、減速比からモーターの実動作点を計算し、その動作点をもとにモーター効率マップを比較することで、その車両システムにとってより高効率のモーターを選択することが可能になります。

 

4.まとめ

これまで述べてきたように、走行用モーターにとって様々な車両の走行シーンに対応するため、広い動作範囲で高効率を実現することが重要となります。一方でその実現には高グレードの電磁鋼板や永久磁石の採用などモーターのコスト上昇が避けられないことも事実です。 

そこで次回コラムでは、モーターのコストアップに対して得られる電動車両への高効率モーター採用のメリットについて述べたいと思います。是非ご期待ください。